前回はオファー後の驚愕の年収事情についての話をまとめました。今回は実際に僕が取得したO-1VISAについてまとめます。
なお、本シリーズ「海外転職・アメリカGAFAの内定取るまで」の図とより詳細な説明は書籍の方にまとめているので、詳しく知りたい方は書籍の方を読んで頂けると嬉しいです。
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はじめに
ビザはいつもホットなトピックです。今回、アメリカへ移住するにあたって僕が取得したのはO-1ビザになります。O-1ビザと取るまでの苦労についてまとめます。
時系列的には、面接初期のスクリーニング時にVISAをどうするのか聞かれたので、O-1が行けると思います!と答えました。ちなみにH-1Bという就労ビザは抽選ですのであてに出来ません。またOPTはアメリカの大学を卒業後に使えるものなので、これも使えません。面接が終盤になってくると、会社の顧問をしていると思われる移民弁護士からリストが送られてきて、O-1ビザの適用要件を満たしているかの簡易チェックがありました。これをパスしたので、会社もビザはクリアできると自信があってオファーを出したのだと思われます。ビザが取得できてから正式にオファーが有効になり、もしビザが取れないとオファー取り消しも有り得るので現職はまだ辞めるなと言われました。
O-1ビザ
O-1のO(オー)はOutstandingのO(オー)です。別名アーティストビザとも呼ばれ、代表例はミュージシャンの全米ツアー、芸能人の映画撮影、スポーツ選手の試合とかみたいです。僕は全米ツアーしませんし、大リーグでプレイもしません。普通に働くサラリーマンです。
実はO-1には別の通り名があり卓越能力者ビザとも呼ばれます。細かく見るとO-1Aの中に「科学」の項目があります。エンジニアはこの卓越した科学者という項目になります。もう少し細かく調べると、卓越した科学者とは例えばノーベル賞を受賞していること・・・。
ΩΩΩ < な、なんだってー!?ノーベル賞!!!???
無理に決まっているでしょう。とビビりましたが、結論は通常の博士であれば全く問題無しでした。修士でも業績がそれに見合うなら取得できるみたいです。学士は聞いたことが無いので分かりません。(無理かもしれません。もし取れたという方がいたら教えて欲しいです)
取得できるとVISAの有効期間は最長3年になり、その後は基本1年毎の更新で6年まで伸ばせます。家族はO-3ビザになり就労できません。
必要要件
では、本題に入ります。ここでは大まかなタイムラインと必要な要件と僕の格闘劇を書きます。控えめにいっても地獄でした。もうやりたくありません。書籍に細かくまとめているので、もし取得を目指す方には必ず参考になります!
アメリカ就職先の契約した弁護士がアメリカ政府への手続きを代行してくれます。必要書類の大半についても弁護士がサポートしてくれますが、業績を調べたり集めたり、多くの方へ連絡したり、レター下書きを準備したりなど自分自身で行う作業が多いです。業績はすでにCVにまとまっていますが、省略してしまった部分はまた調べる作業になりました。
卓越していることを示すための条件があります。
- 世界的に有名で凄い賞を受賞している
- 入会条件の厳しい団体のメンバーである
- 有名な雑誌、新聞、メディアで取り上げられた
- その業界で大きな功績を残している
- その業界で著名な専門誌を書いている
- その能力・業績にふさわしい高収入である
- その業界で審査したことがある
- その業界でめちゃくちゃ偉いポジションである
弁護士からは「これら8個の中から5個以上あると安心ラインだ」と助言頂きました。調べていると3個が最低ラインと書いてあったので弁護士の助言は正しいと思いました。また個数だけでなくインパクトの大きさも関係するみたいです。これまでどんなアウトスタンディング(卓越した)なコントリビューション(世の中への貢献)があるのか決めます。
僕なりにエンジニアのコントリビューションとして認められそうなものは次のような感じかなと思います。
- インパクトファクターの高い査読付論文(複数個OK)
- 国際学会でのオーラル発表
- 特許
- 全論文の引用数が多い(Google Scholarのキャプチャー画面)
- 受賞歴(賞状や盾の写真)
- 新聞や雑誌やTVへの出演歴(ウェブページやスクリーンショット)
- 著名学会での査読歴(ウェブページや学会誌やメール)
普通の博士レベルであればクリアできそうです。ノーベル賞から比べるとだいぶ現実味があります。
レター
卓越した貢献についてだいたい理解できたところで、これを証明するものが必要になります。地獄の入り口です。なんと、証拠として、この卓越した貢献を保障してくれるレターを集めることになります。弁護士はレターは5件以上が必須最低ライン、8件が安心ラインと言われました。
レターをもらうといってもほぼ自分で書きます。オーサー候補となる方へは、「これこれ、こういったことを書いてほしいのですが、こんな例文になります、ここにあなたの組織のレターヘッドとあなたのサインを頂けないでしょうか?」というスタンスです。しかも、あまり近い人はダメです。本人との関係性の遠さも大事みたいです。特に同じ会社の人とか、同じ大学の人とか、論文の連名者は近い人にカウントされます。オーサーはある程度業績のある人でないとダメです。例えば、大学の教授とか、会社の役員とか部門長とか。主張する卓越した貢献に似た分野であったり、既に持っていたりするのが理想です。ダイバーシティ(アメリカかアメリカ外か、さらに国籍、アカデミアかインダストリか)も必要みたいです。これらがハードルを上げます。偉い立場の人にいきなり見ず知らずの人から「自分の卓越した貢献について保障し、褒めちぎる手紙をサイン入りで欲しい」なんて言われてもほぼ無視するでしょ?
僕は、このコントリビューションと証明してくれそうなオーサー候補をマトリックスにしました。どの部分を証明してくれそうかのチェックリストです。決めたコントリビューションは全て網羅している必要がありますし、あまりに偏りすぎていても良くありません。オーサー候補者のダイバーシティのチェックにも使えました。
オーサー候補の見つけ方についてヒントを残しておきます。
- 既に知り合いだけど、同じ組織に所属したことが無い人
- 論文査読で一緒に仕事をしたことがある人
- 学会や展示会などで思い当たる人
- 自分と関係の深い方(既に深い信頼関係を結べている人)と関係の深い人
- 自分の論文や特許を参考文献として参照してくれた人
とにかく自分が使えるツテとチャンネルを使って候補者を決めます。弁護士に「とにかく可能な限りリスト化して!」と言われたので30人ほどの候補者をリスト化しました。国もバラバラです。日本はアメリカ国外になるので良いのですが、日本ばかりに偏りが無いようにしました。お願いできる可能性の高そうな方・効果の高そうな方を数値化してソートします。そこから偏りが無いように上位15人くらいに絞りました。
候補者全員に一気にはお願いしません。だって、オッケーされた分のレター作成(作文)が待ち受けていますし分散させなくてはいけません。優先順位とオーサー候補が決まりましたので、お願いフェーズに入ります。ほぼ全てがメールでのお願いです。やはり遠い関係の方ほど無視される傾向にありました。僕は返事が返ってこない場合に、その期間を定め、その日を過ぎると次の候補者へのお願いに入りました。悲しいのはオッケーの返事をもらって、レター下書きを送ったのに返事が無くなる場合です。これはレターが無駄になってしまうパターンでした。
レター下書きを始めるために弁護士から複数のフォーマットをもらいました。なぜ複数なのか分かりますか?フォーマットは大きく分けて、自分と近いか遠いか、インダストリーかアカデミアか、の2×2=4種類でした。
さらに細かくフォント、インデント、ヘッダー、フッター、文章構成、改行のクセ、日付の書き方、サインの位置まで全部バラバラにします。自分で書いたことがバレないようにだと思います。審査官も分かっているはずですが、同じ書き方だと判明すると機械的にNGになる事例があったのでしょうか。
オーサーからオッケーをもらう度にレター下書きがスタートします。また英作文が始まりました。かなり心が折れそうになりました。その人の立場になりきって書くだけなので、CVほどの神経は使いませんでした。文章のクセはバラけさせた方が良いですが、誤字脱字ももはやクセの一つだと思います。日本人の書く英語なのでかなり偏りましたが、そのあたりは弁護士が校正してくれました。表現に問題が無いか、法律的に有効な用語や言い回しが含まれているかもチェックしてくれました。
こうして7通のレターが集まりました。
弁護士「え?5通以上が理想って言ったけど、マジで7件も集めるって凄いね!(Great!
Awesome! So cool!)」と褒められました。8通を目指そうって言われたはずですが、5通でも十分に良かったのかもしれません。レターが集まると、次のステップとして弁護士が一つの書類にまとめる作業に入ります。実際にアメリカ政府へ提出する書類になります。
アメリカ政府への申し込み
弁護士側にもたくさんの作文がありましたのでレターが集まってからスタートしていました。完了すると、弁護士からアメリカ政府へ申し込み(G-28、I-129、I-907)をしてもらいます。この提出した書類をもらいましたが、合計2000ページもある大作でした。中身は自分で用意したものが大半で、公知になっている論文や特許がページ数を稼いでおりました。図書館にありそうな自分史みたいに見えて嬉しかったです。
興味深いのは頑張って集めたレターやマテリアルが全部使われていないことです。弁護士曰く、アメリカ政府からイチャモンがついて危なくなってきた際に、追加の提出資料として戦うように残しておくそうです。セーフティラインが見えない中でカードは小出しにして、バックアップを用意しておくということでしょう。なんですか、その交渉術は。さすが弁護士です。
提出してから12日目くらいで結果が通知(I-797B)されました。ここに家族の名前が無く一瞬焦りますが問題なかったです。この審査期間はお金を払うと短縮されますが、企業が弁護士経由で支払ってくれました。結果は合格でした。ここまで来ると、ほぼVISAはクリアしたに等しいらしいため、一安心です。連絡は電子版PDFにてメールでもらいますが、原本の紙(後の大使館面接で使う)は郵送で送られてきました。電子版を受け取ると日本国内の米国大使館での手続きに入ることができます。
日本国内、米国大使館での面接
米国大使館の面接前にオンラインでドキュメント(家族それぞれのDS-160)を作ります。
これがまた別の意味での地獄でした。システムを理解するのが難しくストレスが溜まります。細かなバグがあったり、ヘルプがヘルプになっていなかったりします。
何を入力するのか分からず、入力途中に調べなおすことがたくさんありました。家族全員の米国渡航歴(年月日)とか危険な国への渡航歴は無効になった古いパスポートを見ないと分からなかったです。パスポートに押されたスタンプも時系列はバラバラに押されているしインクはかすれているし、解読するのにも苦労しました。むかーしのメールを検索して調べたりもしました。様々なVISAで共通になりますので、ブログや大使館が用意しているYouTube動画も参考にしました。
DS-160が完成したら、大使館での面接予約をします。
面接ではO-1ビザに関わるとても簡単な質問をされました。レター作成で頑張りまくったので、何も回答に困ることは何もありませんでした。その場で「ほぼ合格」と言われました。「一応他にもチェックするけど、何も問題なければVISAスタンプの押されたパスポートを送ります」と言われ帰宅。
O-1 VISAスタンプ付きパスポート
パスポート受け取りは郵送か取りに行くか選べました。取りに行く方が早いですが、家族分もまとめて一人で取りに行くには家族全員と自分の関係を証明するか委任状がいるとかで、それは面倒臭くなり郵送を選択しました。予定日にちゃんと送られてきました。
ついに手に入れました。このパスポートに押されたスタンプがO-1Aビザになります。一瞬、O(オー)が0(ゼロ)に見え、初めて知るAがあったので混乱しましたが、厳密にはO-1の中のO-1Aに申し込んでいたみたいです。
嬉しい。内定もらった時くらい嬉しい。長かった・・・。マジで長かった・・・。
VISAスタンプが手元にあるので正式に「入社確定」になります。弁護士からはこの日以降なら現職への退職意向を伝えて良いと言われていました。言い換えると、VISAスタンプが手元に無い状態は何が起こるか分からないので、入社は確約できないということみたいです。
地獄のような多忙の日々を振り返ってみて
CV準備、面接対策、面接も深夜にやっており大変でしたが、O-1VISAの方が大変だったかもしれません。普通に日本の企業で普段から忙しい仕事をしながらだったのが拍車をかけて大変でした。
書籍の方でもっと詳しく説明しているのですが、ここまででも分かるとおり高い事務処理能力が求められました。WBSは作るし前後のタスクは整理するし、前倒し・並列可能なタスクも考えました。もうプロマネだと思います。ちなみに弁護士には止められましたが、並行して日本現職への退職意向は伝えてあり、引継ぎなども始めていました。
O-1ビザの話はこれでおしまいです。次回は日本企業へ退職意向を伝えた時の話にします。
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